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GALLERY MoMo Projects/ 六本木では10月21日(土)から11月25日(土)まで当ギャラリーでは初となる朴愛里による個展『Self-Portrait』を開催いたします。
朴は1992年東京に生まれ、韓国京畿道で育ち、2021年に武蔵野美術大学造形学部油絵学科版画専攻を卒業しました。現在、同大学院造形研究科修士課程美術専攻版画コースに在籍しています。2017年「第3回ナミ国際絵本イラストレーション・コンクール」、2020年「玄光社 illustration 第214回ザ・チョイス」入選。 2021年には、「第5回アワガミ国際ミニプリント展」入選、「第8回山本鼎版画大賞展」で優秀賞を受賞しました。
『私はずっと銅版画で私小説を描いているのかもしれない』と述べているように、朴は一貫して、日本で生まれ、韓国で育った在日韓国人3世である自分自身のルーツを、作品を通して辿ってきました。韓国で絵本の専門学校で版画プレス機と出会い、イラストレーションや絵本の原画を制作するために版画を始めたという朴は、イメージだけで日本と韓国で暮らす自身の両親をモデルにフィクションを交えた作品を制作しました。武蔵野美術大学在学中は、顔を描かないように幼少期の自画像を制作しました。それは、自分が何者であるかを探るようにも見え、またまだ何者でもない頃の自分を描いているようにも見えます。
卒業制作では、自分のルーツを辿るため、在日朝鮮人1世である祖母が戦時中に働いていたと思われる大阪の莫大小工場の写真を用いながら銅版画に起こすことで、個人の写真を歴史的な問題を内包させる作品へと昇華さることに成功しました。
本展では、朴自身の幼少期の写真や身近な対象を描いた版画作品を展示いたします。『Self-Portrait』というタイトルではあるものの、朴は、『作品と実際の自分の人生の間には常にズレがあるように感じる』と言います。それは、家にあるごく普通の思い出の写真や家族写真、彼女自身が見てきた風景を制作に多くの過程を要する銅版画で表現することで、客観的な視点が加わり、銅版画特有のマチエールと線が物語性を強め、個を描きながら作品に公共性を与えているからのようにも感じられます。祖母と父を描いた在日シリーズから、自分自身の人生を辿る本展を通して、大きな枠で括られる人たちの中にも多様な在り方が存在し、また多くの人が持つ当たり前の温かな思い出や生活があることを感じていただけたら幸いです。
アーティストコメント
手元に残された写真は、いつかどこかで確かに存在していた世界を私に見せてくれる。だが、それは撮り手の視線により四角い枠にフレーミングされた断片的な世界であり、カメラによる歪みや現像・印刷時の微調整など必然的に加工が介在される虚像の世界でもある。
私はそのような特性を持つ写真というメディアに残された過去の世界を見返しながら、撮り手の視線の上に自分の視線を重ねイメージをトリミングし、銅版の中に配置したフレーム内に織りなしていくことで、忘却の彼方へ消え去っていた自分自身の子供時代の記憶や感情、また家族や身の周りの人々の人生のある瞬間、もしくはその存在そのものと向き合っている。
今回の展示は、自分探しの途上で生まれた、主に自分自身や身近な対象を描いた作品が中心となるが、展示の外側にはまだ描き切れていない対象や瞬間が存在している。
私の世界は、今回展示する作品に描かれた存在はもちろん、今のところ省かれたり画面の中で比重が重くなかったりする存在によっても形成されていて、作品と実際の自分の人生の間には常にズレがあるように感じる。
多分このズレを埋めることはできないだろう。だとしたら、わざともっとかけ離れたものにしていってもいいかもしれない。
2023 年 朴 愛里