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GALLERY MoMo Ryogoku では吉田晋之介の4年ぶりの個展「PERISCOPE」を8月14日(土) から9月11日(土) まで催いたします。
吉田晋之介は1983年埼玉県生まれ、2012年東京藝術大学大学院を修了し、2009年のシェル美術展で準グランプリ、2012年のアートアワードトーキョーでは長谷川祐子賞を受賞しました。2013年にはVOCA展にて佳作を受賞、また神戸ビエンナーレ2013や大阪、東京、金沢と巡回したグループ展「北加賀屋クロッシング2013 MOBILIS IN MOBILI -交錯する現在-」にも参加し、高い評価を得、2014年には、岡本太郎賞に入選しました。
初期の吉田作品に特徴的なのは、ダムや山間部の崖の崩落防護壁など人工的な造営物を、匿名性を持った具象的なイメージで描き、その背景に人間の営為に対する信頼性と敬意が内在した作品でした。
しかし、東日本大震災を機に自然に対する抗いようのない破壊力にその思いは一変し、描かれる人工的な対象物は自然の中で崩壊と混乱を象徴的に示すことになりました。また、原発事故は、流布している情報に疑問を持たせ、五感で感じることのできる変化はないにも関わらず、目に見えない放射性物質への恐怖が吉田の日常の風景を変えました。
震災後現地に赴くものの、抽出されるイメージの多くはテレビ映像やネットによる映像が圧倒的なものとなり、現実に眼にしたものとメディアを通した映像が複合的に重なるように描かれ、具象的なモチーフでありながら思考を重ねた抽象性も感じさせる画面へと変化して行きました。この一連の体験は、吉田の常識を覆し、制作への考え方を大きく変化させました。
前回の個展では、アメリカの心理学者であるJ・J・ギブソンが唱えた物に変化を加えることであらわれてくる不変なもの、構造の本質を定義する「不変項(invariant)」に興味を持ち、一つのテーマやモチーフにこだわらず、自身の変化を受け入れ制作した作品を展示しました。
しかし、新型コロナウイルスの影響で2020年に予定されていた個展は延期され、「日常はマスクで顔を覆われ、ソーシャルディスタンスやオンラインコミュニケーションを強いられることとなり、風景はつくづくシルエット的で、ものごとの本質を捉えにくくなったように感じる」と語り、そうした刻一刻と変化する状況の中、「窓から覗いて見えたものを全身で感じ取り、この時この環境だからこそつくれるもののことを考えていきたい」と述べ、「不変項」へのあくなき探求を続けています。
残暑厳しい折、ご高覧いただければさいわいです。
アーティストコメント
今回個展のタイトルに選んだ「PERISCOPE(ペリスコープ)」は、英語で「潜望鏡」という意味である。
前回の個展「マルチウィンドウ」(2017年10月開催)から4年が経ってしまった。
展覧会を終えた後の2018年当初、次回の個展は東京五輪2020の開催期と重なることから着想し、「東京」をテーマとした展覧会を企図していた。
世の中は平成から令和となる。
2019年10月に最愛の祖母を亡くし、その後すぐに世界中に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行り出す。
翌2020年には緊急事態宣言に伴う外出自粛、マスク常時着用、ソーシャルディスタンス、そして感染への恐怖を世界中の多くの人とともに経験する。
祖母が逝ってちょうど1年後の10月、祖父も他界してしまった。
2021年5月現在、東京五輪は延期を経てまだ開催可否についての議論がなされている。
コロナ禍では、勤務先の仕事の性質上、結局年中オンライン授業対応に忙殺されることとなり、普段の制作環境を全く保てない状況が続いた。
外出自粛ムードの中、生活のほとんどは自宅のある日暮里と、勤務先の上野との往復になる。感染を恐れ、勤務以外の外出は極力控え、毎日最小限のごく限られた人としか会わなかった。
美術界隈の動きや他作家の活動や作品は、この1〜2年間はほぼインターネット上でしか把握できていない。
かつてのアーティスト仲間との交流も、今はほとんどおこなっていない。
外界の動きは毎日インターネットでチェックしているが、その情報も、なんだかより濾し取られた断片的なものになっているように感じる。
⼈間の社会⽣活において、他者から知覚される他者の不変項【※注】は極めて重要である。⼈間同⼠のコミュニケーションとは、相⼿の変形の中から抽出される不変項を、持続的相互に探り合うことであると⾔える。
マスクで顔を覆い、ソーシャルディスタンスやオンラインコミュニケーションを強いられることとなったこの状況では、ものごとの本質を捉えにくくなったように感じる。
かつて私は、自身の博士論文の中で石膏デッサンの本質についてこう考察した。
“石膏デッサンの本質は、知覚対象を一箇所に固定された視点だけから判断したり、シルエット的で写真的な見かけの「形 (form)」だけを捉えることではなく、知覚対象を動的に、多視点的・多面的に見ることで現れるそのものの本質、リアルな「姿 (shape)」を捉えることの訓練なのである”
日暮里と上野とインターネットをマスクをつけながらひたすら巡回するだけの小さな動きから見えてくる世界は、つくづくシルエット的であると思う。
新型コロナウイルス感染症蔓延による予想だにしなかった世界の変化の中で、当初描いていた「東京」は自分には大きすぎるように感じるようになった。
それにしてもこのコロナ禍は長い。
まだしばらく、他者との物理的距離を保つために潜らなければならないだろう。私はそこから日々、覗き窓をぐるぐる覗く。 このいわばシルエット的にしか世界を見ることのできない窓から覗いて見えたものを全身で感じ取り、この時この環境だからこそつくれるもののことを考えていきたい。
2021年 吉田晋之介
【※注】不変項(invariant)とはアメリカの心理学者である J・J・ギブソンが唱えた、物に変化を加えることであらわれてくる不変なもの、構造の本質のこと。動物は変化(動き)の中で、不変であり続ける物の性質を抽出する。不変項は直接⽬に⾒えるものではなく、その意味で抽象的なものだ。
[略年譜]
1983 埼玉県生まれ
2009 東京芸術大学絵画科油画専攻卒業
2012 東京芸術大学大学院美術研究科修士課程絵画専攻油画技法・材料研究分野修了
2017 東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程美術専攻油画研究領域(油画技法・材料)修了
[個 展]
2010 GALLERY MoMo Ryogoku (東京)
2012 GALLERY MoMo Ryogoku (東京)
2015 GALLERY MoMo Ryogoku (東京)
2017 GALLERY MoMo Ryogoku (東京)
[グループ展]
2004 「戸塚伸也・吉田晋之介展」世田谷区民ギャラリー (東京)
2008 「高橋芸友会賞受賞者展」東京芸術大学 (東京)
2009 「トーキョーワンダーウォール2009」東京都現代美術館 (東京)
「遊美’09」タワーホール船堀(東京)
「シェル美術賞展2009」代官山ヒルサイドフォーラム(東京)
2010 「Lecturers」ギャルリージュイエ(東京)
「STK+YY GROUP SHOW」ターナーギャラリー(東京)
「中径展」府中市美術館市民ギャラリー(東京)
2011 「再生‐Regenerate-」GALLERY MoMo Ryogoku(東京)
2012 「分岐展 vol.2 」GALLERY MoMo Roppongi (東京)
「Lapis lazuli ‐本瑠璃で描く‐」芸大アートプラザ(東京)
「アートアワードトーキョー丸の内 2012 」 行幸地下ギャラリー(東京)
2013 「VOCA 2013 」上野の森美術館(東京)
「港で出合う芸術祭 神戸ビエンナーレ2013」元町高架下(兵庫)
「北加賀屋クロッシング2013 MOBILIS IN MOBILI-交錯する現在-」 コーポ北加賀屋(大阪)
「北加賀屋クロッシング2013 MOBILIS IN MOBILI-交錯する現在- 巡回展」 GALLERY MoMo Projects(東京)
2014 「第17回岡本太郎賞展」川崎市岡本太郎美術館(神奈川)
「interaction vol.2」GALLERY MoMo Ryogoku(東京)
2015 「interaction vol.3」GALLERY MoMo Ryogoku(東京)
「第1回国際芸術コンペディション『ART OLYMPIA 2015』」 豊島区庁舎(東京)
「東京アートミーティングⅥ "TOKYO"-見えない都市を見せる」 東京都現代美術館(東京)
2016 「リオンソー・ルネサンス 2016」日本橋三越本店(東京)
「佐藤一郎とその仲間たち展」永井画廊(東京)
「佐藤一郎とその周辺展」日本橋三越本店(東京)
「東京藝術大学大学院美術研究科 博士審査展 2016」 東京芸術大学大学美術館(東京)
2017 「TARO賞20年 20人の鬼子たち」 岡本太郎記念館(東京)
「Just like painting」みんなのギャラリー(東京)
「City Scape」GALLERY MoMo Ryogoku(東京)
[受 賞]
2008 高橋芸友会賞
2009 シェル美術賞2009準グランプリ
2012 アートアワードトーキョー丸の内2012 長谷川祐子賞
2013 VOCA 2013 佳作賞
神戸ビエンナーレ2013 奨励賞
2014 第17回岡本太郎現代芸術賞 入選
2015 第1回国際芸術コンペティション『アートオリンピア』 学生部門3位
[その他]
2015 第29回ホルベインスカラシップ奨学者
吉田晋之介 " 植物のある部屋-対岸の火事 " 2020年 油彩、キャンバス 162.0 x 162.0cm