藤森 詔子|舵を取れ!
January 16 - February 13, 2021
これまで経験したことない流行り病で、外出自粛を余儀なくされた2020年の春は、コミュニケーションの在り方を振り返らざるを得なかった。
家に籠もり今何を描きたいか?と考えた時、改めて人と触れ合い共に生きること、それらをキャンバスに残し誰かに伝えたいと願うことなど、自然と絵を描く根本的な動機にたどり着いた。
同時に、17歳で初めてルーブル美術館に行ったことを思い出す。将来画家になりたいのなら早いうちに経験をと、父が連れて行ってくれた二人旅行だった。その時に見たテオドール・ジェリコーの大作、「メデューズ号の筏」は衝撃的で特に強く印象に残っている。 当時ルーブルで買った図録を引っ張り出しページをめくると、高校生の私が付けた絵具汚れと懐かしい図版が載っており、いくつかのページには深い折り目がついていた。制作の参考に、開いてイーゼルの足元に置いていたと思う。絵画を志す原点はここにあったと思った。過去の自分に大きな力をもらったような気がした。
「メデューズ号の筏」にインスパイアを受けた「舵を取れ!」は、2020年の春でなければ描くことはなかった。
先のわからない不安の海を進む沈みかけの小舟。決して希望を捨てず大きな旗を振り、全力で歌い、仲間を助けながら最後まで諦めない。
私の絵の中に出てくる登場人物は、この世界の誰でもある。
家族や恋人や友人や同僚など、社会で共に時間を営む人々と、時に楽しくじゃれったり、読み合いの駆け引きをしたり。決して一 定ではない危うさ、切実さ、そういったアンバランスな心模様全てが、健全な人間らしさなのだと思う。
藤森 詔子
藤森 詔子
舵を取れ!
2020年
油彩、キャンバス
162.0 x 162.0 cm
Shoko Fujimori
Take the helm of yourself !
2020
Oil on canvas
63.7 x 63.7 inch
17歳の時ルーブル美術館で見た『メデューズ号の筏』と『民衆を導く自由の女神』をよく覚えています。
大きなキャンバスに危機迫る状況が描かれていて、不安を掻き回されるようでした。
2020年の春、今何を描きたいか?と自分に問うた時、 この2枚を思い出しました。
もう座礁しそうな舟の上で、大切な人を助けようと抱く人。沈むその瞬間まで精一杯ギターで歌う人。困難な中でも大きな旗を掲げる人。
未来がどうなるかは分からない。
しかし、この先もし私達に、ゆっくり沈む舟のような不安が襲ってきたとしても、互いに手を取り合い、出来る限りの幸せを未来に繋いでいけたらいいと思います。
藤森 詔子
ナルシシストたちの遊戯室
2020年
油彩、キャンバス、パネル
162.0 x 162.0 cm
Shoko Fujimori
The Playroom of the Narcissists
2020
Oil on canvas and panel
63.7 x 63.7 inch
バルテュスの『美しい日々』をはじめとする、少女と手鏡のシリーズをイメージの源にしています。
自己愛をテーマに描いたこの作品は、プレイルームでティータイムを楽しんだり、うっとりと手鏡を覗く女性に男性がじゃれ合って遊んでいます。楽しそうなシーンの細部には、美しい花やフレッシュな果物、似つかわしくないドクロ、後ろには数本の矢が危うく飛んでいます。また、矢は“心を射止める”象徴でもあります。
自己を愛する気持ちは時にエゴイズムでもありますが、それも人間らしさだと隠すことなく肯定したいと思っています。
藤森 詔子
もうひとつの駆け引きゲーム
2020年
油彩、キャンバス
116.7 x 116.7 cm
Shoko Fujimori
Another Mind Game
2020
Oil on canvas
45.9 x 45.9 inch
ジョルジュ・ド・ラ・トゥール『ダイヤのエースを持ついかさま師』、ハンス・ホルバイン『女占い師』にインスピレーションを得た作品です。
ジェンガゲームの裏側で、もうひとつのゲームが行われています。
右の女性は曖昧な微笑みを浮かべ、温かく手を取るふりをしてこっそり指輪を盗もうとしています。左の女性もそれに気づいているのか、目線はジェンガを向いていません。少しのバランスで音を立てて崩れるジェンガと反復するように、互いに用心し表情を読み合う緊迫のシチュエーションです。結末は、どちらがバランスを崩してしまうのでしょうか....。
藤森 詔子
The Smiling Skin
2019年
油彩、キャンバス、パネル
72.7 x 60.6 cm
Shoko Fujimori
The Smiling Skin
2019
Oil on canvas and panel
28.6 x 23.8 inch
藤森 詔子
The Smiling Skin #2
2020年
油彩、キャンバス、パネル
72.7 x 60.6 cm
Shoko Fujimori
The Smiling Skin #2
2020
Oil on canvas and panel
28.6 x 23.8 inch
The Smiling Skin
この絵は“とにかく最高の笑顔が描きたい”という気持ちが 先立って描き始めました。 どんな人でも表情の裏側には、不安やネガティブな面を持ち合わせていますし、ネガティブな側面を全てクリアにして生きることは不可能です。ですが、それ(ネガティブな側面) を内側に秘めていたとしても、人と人とが関わり合って生まれる温かいものを、人種も年齢も性別も隔たりなく共有できれば、どんな時代でも幸せに生きていけそうだなぁと思うのです。
※ネオンカラー的な血管を、毎回わざと透けさせている理由は、(肌の)内側に気持ち悪さ、生々しさを内包している。⇒ 不安やネガティブの象徴のようなイメージ。肌にこだわったり血管が透けるのは、個人的にはそういったネガティブなリアリティを内側に秘めているようなイメージです。スーッと肌をナイフで切ると、たちまち破裂してこぼれ出してしまい そうな不安感です。色彩感はリアルすぎるとグロくて重すぎるので、少しポップに装えるようネオンカラーっぽくしています。
The Smiling Skin #2
“とにかく最高の笑顔が描きたい”という思いが先立って描き初め、「The smilling skin」と対になる作品です。
私達が感情豊かに生きようと思うとき、ポジティブな気持ちと背中わせに必ず不安や心配もくっついてくるものです。この2つは善/悪のように真逆のものではなく2つでセット、 表裏一体だと捉えています。
どちらも人間らしさであり悪ではありません。 白と黒の2枚の肌は表情の表と裏をイメージしていますが、 どちらが強く現れる瞬間でも、心がけひとつで私達は生きることに前向きでいられると願っています。
藤森 詔子
Honest Eyes
2020年
油彩、キャンバス、パネル
25.7 x 18.2 cm
Shoko Fujimori
Honest Eyes
2020
Oil on canvas and panel
10.1 x 7.1 inch
藤森 詔子
The Flower for You
2020年
油彩、キャンバス、パネル
25.7 x 18.2 cm
Shoko Fujimori
The Flower for You
2020
Oil on canvas and panel
10.1 x 7.1 inch
Honest Eyes
大筋のテーマは「The Smiling Skin」と同じですが、 この絵は、嘘のない真っ直ぐな瞳を描こうと思いました。笑っているのか眩しいのか、どちらとも取れそうなくらいの微妙な表情にしたいと思っていました。 「真っ直ぐな瞳」という言葉の日本的なニュアンスが難しかったので、タイトルは「正直な」という意味合いのHonestを使って付けました。
The Flower for You
相手に対し、愛を込めて花を送るような気持ちで描いた絵です。
具体的に特定の相手を想定して描いた訳ではありませんが、コミュニケーションの中で、誰か相手に想いを伝えるという事は、本来こういう気持ちだと思うのです。本当の花はすぐに枯れてしまいますが、絵の中の花はずっと綺麗に咲き続けてくれます。
大作であればもっとイメージを膨らませたり置き換えたり、シチュエーションを捻ったりするのですが、この小作品はシンプルにしたくて、そのまま花だけを描きました。