平 俊介|睡光都市景
2021年7月3日(土)- 7月31日(土)
「都市の疲労感」というキーワードがここ何年も頭から離れずにいる。
一見煌びやかな都会の風景に、そこはかとない歪みや鬱屈が滲んでいるのをずっと感じてきた。
町のシンボルとされる高層ビルにも最新の巨大商業施設にも、そこで働く人々がぎっしりと詰まっていて、
どうしてもその様子に意識がいってしまう。
私にとって都市とは発展の象徴ではなく労働現場の密集地という印象なのだ。
イヤホンとスマホの画面で感覚を遮断し満員電車に耐える会社員や、真っ黒に日に焼けながら建築資材を組み上げ続ける現場作業員の姿を、
絵描きという立場の私は疎外感とともにどこか蚊帳の外にいる気持ちで眺めてきた。
私独自の視点があるように、彼らにも労働者という立場からの視点がある。
私には想像することしかできないが、彼らの見る様々な景色を美しい風景画として描きたかった。
2021 年 平俊介
反復勤労車
2021年
アクリルガッシュ、キャンバス
162.0 x 130.3 cm
Iteration Diligent Labor Car|2021 Acrylic gouache on canvas
大手企業に勤めていた友人の話をもとに制作しました。
一見華やかに見える高層ビルの中には、
毎日業務に追われながら淡々と仕事をこなす人々の姿があります。
ビルの外側からは見えない大勢の鬱屈を表現しました。
微睡ヶ淵駅
2018年
アクリルガッシュ、キャンバス
72.7 x 60.6 cm
Edge of Sleep Station|2018 Acrylic gouache on canvas
毎日同じ道順で同じ電車に乗り出勤していると、通勤途中の記憶が朧げになることがあります。
道中の記憶が抜け落ちたり、今日のことか昨日のことか区別がつかなくなる様子を表しました。
コミューター・アグレッション
2021年
ミクストメディア
13.0 x 21.0 x 31.0 cm
Commuter Aggression|2021 Mixed media
満員電車に毎朝押し込まれ、社会的距離が皆無の状態のストレス、足を踏まれたときに生じる過剰な苛立ちを表現しました。
蕭然町喫煙所
2020年
アクリルガッシュ、キャンバス
72.7 x 91.0 cm
Smoking Area in the Secluded Town|2020 Acrylic gouache on canvas
喫煙所が年々少なくなり、喫煙者が淘汰されつつあります。
喫煙者がいなくなってほしいという世間の願望とは逆に、
タバコ嫌いな人がいなくなればいいのにというのが喫煙者の願望です。
嫌煙家、非喫煙者がいなくなればそこはゴーストタウンになります。
喫煙者にとっては楽園のような景色です。
迷夢浮流センター
2020年
アクリルガッシュ、キャンバス
89.4 x 145.5 cm
Illusion Floating Center|2020 Acrylic gouache on canvas
倉庫内作業のアルバイト経験をもとに制作しました。
同じ単純作業を一日中続けると、床に着いて目を閉じたときに作業風景が幻覚のように浮かび上がってきます。
また、くたびれた表情の社員達はもっぱら野球の話題で盛り上がっていたことが印象的でした。
倉庫内で働く人たちの夢と現実が入り混じった風景を描きました。
幻夢借景⾞
2020年
アクリルガッシュ、キャンバス
53.0 x 72.7 cm
Borrowed Scenery Car of Phantom Dream|2020 Acrylic gouache on canvas
タクシードライバーには独自の文化や視点があると感じます。
1日中狭い車内で過ごし、町の景色を静観し乗客を運びます。
ドライバーの視点や思考が表面化し、タクシーに浮かび上がった様子を描きました。
アイアン・インパルス
2020年
ミクストメディア
14.5 x 15.6 x 3.0 cm
Iron Impulse|2020 Mixed media
スマートフォン用のアイアン・メイデンです。
ネット上での他者との交流や、仕事上の連絡や報告などの煩わしさから、
他者との関係も情報も遮断したくなる衝動を表しました。
煙光喫煙台
2021年
アクリルガッシュ、紙、⽊製パネル
33.3 x 24.2cm
Smoke Light from the Smoking House|2021 Acrylic gouache on paper and wooden panel
町で喫煙所を探すことは今や至難の業になりつつあります。
この喫煙所は周囲の迷惑を省みず煙の匂いで所在をアピールし、同志を募っています。
沈憂船
2020年
アクリルガッシュ、キャンバス
97.0 x 130.3 cm
Depression Ship|2020 Acrylic gouache on paper and wooden panel
隅田川や神田川沿いを歩いていると非常に重苦しい気分になることがあります。
都会の川は隣接する建物の側面や裏側が丸見えになっているからでしょう。
この屋形船は重たくくたびれた雑居ビルを背負い、橋に阻まれているためこの区域から出られないまま漂っています。
⽩昼投幻器
2021年
アクリルガッシュ、キャンバス
41.0 x 31.8 cm
Daytime Illusion Light|2021 Acrylic gouache on canvas
深夜の道路工事の現場でよく見かけるバルーン投光器をモチーフにしています。
昼間のように煌々と照らす様子が人工の幻であるように感じられます。
この作品の投光器は見る人によって形が変わるもので、
家庭に想いを馳せる様子や胎内回帰願望の象徴としてゆりかごを描きました。
⾊光柱
2021年
アクリルガッシュ、紙、⽊製パネル
41.0 x 31.8 cm
Color Light Tower|2021 Acrylic gouache on paper and wooden panel
筒井康隆の「佇む人」という短編小説が元になっていて、
罪を犯した者が足元を地面に埋められ、
ゆっくりと姿が変わり街路樹になってしまうという話です。
この作品の信号機のようなものはもともとは人で、
長い年月をかけて交通のインフラに変化し、
最終的には人の原形を無くしてしまいます。
⾚⾊吸引機
2021年
アクリルガッシュ、キャンバス
24.2 x 33.3 cm
Red Suction Machine|2021 Acrylic gouache on canvas
大手チェーンのコンビニ店員は、店舗の売り上げなどに特に執着は無く、
決められた業務を決められた時間の中でこなしていきます。
バーコードを読み取った商品はその後食べられずに捨てられる可能性もありますが、
店員にとっては関係のないことです。
客が持ち出す商品を次々と読み取り、補充し、
それを繰り返しながら徐々に空虚になっていく様子をイメージして描きました。
憑具箱
2021年
ミクストメディア
8.7 x 26.0 x 13.5 cm
Possession Tool Box|2021 Mixed media
長年使われた道具には神や精霊が宿り、
いつか自分の意思で動き出すという「付喪神」の思想が古くから言い伝えられていますが、
この道具箱の工具には使った人の念のようなものが染み付き、
身体の一部かのように変形していきます。
憑具箱
2021年
ミクストメディア
8.7 x 26.0 x 13.5 cm
Possession Tool Box|2021 Mixed media
古い団地やマンションの屋上に設置された高架水槽は、
電動の水道設備が完備された現在では不要な構造物になりました。
長い間水の循環もなく放置された水槽が、
徐々に生き物のように変化していく様子を描きました。